「まず知り合いに聞く」で、もう止まっている
「仕事を頼んでくれそうな知り合いが、そもそもいない。」
営業の話で「身近な事業者へ声をかけよう」と読むたび、そこで閉じたくなること、ないだろうか。開発の経験はある。でも、普段話すのは同じ会社の人やエンジニアばかり。自分で顧客と関係をつくる場面は少なかった。連絡する相手が浮かばないと、もう一つ個人開発を作ってから、と準備へ戻ってしまう😔
説明用の架空ケースとして、予約や申込の仕組みを作った経験のあるエンジニアを考えてみよう。地域の小さな店の仕事に関心はあるが、店主の知人はいない。検索して見つけた店へ「予約システムを作れます」と送ろうとして、手が止まった。店は予約を受けているのか。今のやり方で困っているのか。まだ何も聞いていない。
ここで足りないのは、強い営業文だけではない。どんな仕事に関心があり、その仕事をしている人と、どの場で話せるか。最初は、その二つを具体的にする。 受注までの道筋を一度に完成させなくても、相手の仕事を知る接点は選べる。
「誰でもいいから顧客」を、一つの仕事へ戻す
最初から対象を業種名だけで決めると、連絡先は増えるのに聞くことが浮かばない。「小売店なら何でも」では、自分も相手も、何について会話するのか分からない。断られるのが怖いほど幅を広げたくなるけれど、広さが会話の難しさを増やすこともある。
そこで、関心のある仕事を一つ選ぶ。商品を取り置きして、来店まで案内する仕事。イベントの申込を受け、参加者へ連絡する仕事。複数の注文を受け、発送する仕事。自分が作れる画面ではなく、誰かが日々行っている流れで書くと、知りたいことが出てくる。
架空のエンジニアは、地域の店が開く週末の販売会に目を留めた。公開案内には、通常販売と予約品の受け渡しを同時に行うと書かれている。「店主は忙しそうだから、管理システムが必要なはず」と決めつけず、こうメモする。
- 分かったこと:販売会で、通常の商品と予約品を扱っている。
- まだ分からないこと:予約内容を誰が確認し、当日はどう受け渡しているか。
- 聞いてみたいこと:普段と違って、準備や確認が増える場面はあるか。
公開情報は、困っていると断定する材料ではなく、相手の仕事へ近づく問いを作る材料だ。 画面が古い、紙を使っている、といった見た目だけで課題を決めない。今の方法が、その人には十分に合っている可能性もある。
接点は、話したい仕事と参加目的で選ぶ
相手が決まっても、店の問い合わせフォームへ突然提案を送るしかないと思うと、また重くなる。会話を始める場には、公開イベント、業界の交流会、事業者向けの勉強会、参加条件の合う地域の集まりなどがある。ただし、どの場も営業のために自由に使ってよいわけではない。
店の公開イベントへ参加するなら、まず案内と参加条件を読む。商品を楽しむ場なのか、出店者と交流する時間があるのか。技術者の参加が場違いか分からなければ、主催者へ目的を伝えて確認する。コミュニティでは、営業・紹介・個別連絡に関するルールも見る。相手の仕事への関心と、開発の仕事につながる機会を探していることを両方伝え、目的を隠さない。
小さな店の予約品の受け渡しに関心があります。普段は開発の仕事をしていて、現場で役立つ仕事の機会も探しています。案内にある交流時間で、運営の話を少し聞いてもよいでしょうか。営業のお声がけを控える場でしたら、そのルールに従います。
GOV.UKのユーザー調査の案内も、知りたい相手を具体的にし、関連する団体や場を通して参加者を探す方法を挙げている。これは政府サービスの調査の資料で、顧客獲得を保証する営業手法ではない。ここでは、関係のない人へ広く送る前に、相手と話す理由のある場を探すという考え方を参考にしている。
紹介を頼む場合も、紹介する人の負担を小さくする。「誰か顧客を紹介して」より、「予約品の受け渡しをしている店の仕事を知りたい。話せる機会があれば、目的を伝えてつないでもらえると助かる」と言える。紹介先の連絡先は、相手の了解を得て渡してもらう。仕事で預かった顧客一覧や、参加者名簿を自分の営業先にしない。
初めての会話は、相手の忙しさを見ながら区切る
公開イベントの当日、エンジニアは店主が予約品の袋を確認しているのを見た。話せる場へ来たのに、「今声をかけたら邪魔だろうか」と緊張する。ここで無理に勇気を出して、作れる機能を全部話す必要はない。主催者が案内した交流時間まで待ち、短く自己紹介して、今話してもよいかを聞く。
開発の仕事をしている者です。販売会の案内を見て、予約品を渡すまでの流れに関心を持ちました。今、少し伺っても大丈夫ですか。お忙しければ、今日はご挨拶だけにします。
相手が話せるなら、「何か困っていますか」といきなり問題を探すより、「予約を受けてから、当日の受け渡しまで、どなたが何をされていますか」と流れを聞く。予約の受付よりも、家族へ引き継ぐ時の確認が大変かもしれない。困りごとがないなら、今の方法で十分だと知れたことにも意味がある。
「それ、作れます」と返したくなったら、もう一度聞いた内容へ戻る。「家族へ渡す時に、受け取り済みかを確認する場面が増えるんですね。理解は合っていますか」と書き返す。相手に直してもらえる余地を残す方が、その場で大きな約束をしなくて済む🙂
会話を始められたことと、相手が仕事を依頼したいことは別だ。 名刺交換や好意的な反応を、契約の同意に読み替えない。写真、録音、発言の公開、連絡先の利用もそれぞれ確認する。相手が急いでいれば、途中でも切り上げていい。
連絡先を増やすより、次の会話を一つ合意する
店主が「また時間のある時に話しましょう」と言ってくれた。うれしくて、その夜に提案資料を送りたくなる。でも、相手は雑談の続きを想像しているかもしれない。次に進むなら、話す目的、方法、時間、こちらが何を返すかを小さくそろえる。
ありがとうございます。予約品の確認とご家族への引き継ぎについて、20分ほどお話を聞きたいです。開発の依頼を決めていただく場ではなく、まず流れを整理したいと思っています。お話の後に短いメモをお返しする進め方で、負担はありませんか。
時間は例で、相手と相談して決める。メモを返すのも、実施すると合意した範囲だけだ。実データを預かる調査、試作、設定変更は、この会話とは別の作業として範囲と費用を確認する。関係を作るために、頼まれていないものを無料で作って渡す必要はない。
GOV.UKの調査への同意の案内は、何をするか、集める情報をどう扱うか、参加者が選べることを説明する考え方を示している。小さな仕事の会話でも、目的と扱う情報を先に伝えると、相手は話すかどうかを選びやすい。断られたり、返事がなかったりしても、追いかけて理由を言わせない。連絡の期限や方法に合意がなければ、何度も送り続けない。
今日の一歩は、次の三行を埋めることだ📝
- 関心のある仕事を一つ書く。まだ決まらなければ、公開案内を一つ読む。
- その仕事の話を聞ける場と、参加・連絡のルールを確かめる。
- 自分の目的と、相手が断れることを含む最初の一言を書く。
最初に増やしたいのは顧客名簿ではなく、相手の仕事を理解する会話だ。 すでに話したい人がいるなら、最初の一人との会話へ。相談を受けたら、機能より先に困りごとを整理する方法へ進める。知り合いがいない場所からでも、今の自分が関心を持てる仕事と、参加できる場を一つ選ぶところから始められる。
参考にした情報
- GOV.UK「Finding participants for user research」(2016年3月1日公開、2026年9月22日更新、2026年10月10日確認)
- GOV.UK「Getting informed consent for user research」(2016年5月24日公開、2018年11月5日更新、2026年10月10日確認)