契約と更新 公開: 2026/2/28 更新: 2026/8/18

更新してもらえるのはうれしい。でも、増えた仕事を同じ単価で続けるのがつらい

契約更新の連絡にほっとしたのに、単価は据え置き。断られたくなくて即答する前に、最初の約束と今の仕事を並べ、次の条件を話す準備をする。

撤収後の体育館で機材とケーブルを抱え、増えた仕事を同じ単価で続ける更新連絡を見て立ち止まるエンジニア
ValueGate Blog

更新してもらえるのはうれしい。でも、増えた仕事を同じ単価で続けるのがつらい

月曜の18時42分。地域イベントの撤収が終わり、エンジニアは長いLANケーブルと機材ケースを抱えて体育館を出ようとしていた。

スマートフォンに、契約担当者からメッセージが届く。

次の3か月も、今と同じ条件でお願いできますか?

更新の連絡が来たことには、ほっとした。来月の売上が消えない。現場から必要とされている。その安心は本物だった。

ただ、「同じ条件」の四文字を見たところで、親指が止まった。

参画時に頼まれたのは、週3日の実装と不具合修正だった。今は障害の一次対応、外部ベンダーとの調整、リリース判断、新しく入った人の相談まで引き受けている。今日も画面を直すだけのはずが、会場のネットワーク確認と運営スタッフへの説明まで残った。

仕事は増えた。それでも、更新してもらえるだけありがたい気がする。単価の話を出したら、感謝がないと思われるかもしれない。面倒な人だと思われて、別の人を探されるかもしれない。

ここで条件の話をしたら、せっかくの更新が消えるかも。

そう考えると、いつもの「承知しました」を返す方がずっと楽だった。送信すれば、今夜だけは安心できる。けれど、その3か月後には、また同じ画面の前で苦しくなる😮‍💨

この記事で整理したいのは、強気な値上げ交渉ではない。続けたい気持ちと、同じ条件では苦しい気持ちを、どちらも消さずに話すための準備だ。

「更新したい」と「同じ条件で続ける」は別の返事でいい

更新の連絡が来ると、頭の中では二択になりやすい。

  • 今の条件ですぐ受ける
  • 単価を上げてほしいと言い、断られる

この二択はかなり怖い。だから、まだ話し合ってもいないのに、自分から前者を選びたくなる。

でも、最初の返事で決めるのは、契約のすべてではない。まず「次期も続けたい」と伝え、そのあとで「次期の業務と条件を確認したい」と分けてよい。

体育館で手が止まったエンジニアなら、最初の返事はこうなる。

更新のご相談ありがとうございます。次期も継続したいです。一方、開始時より担当業務が増えているため、次期の範囲と条件を15分ほど相談させてください。今週木曜の午後はいかがでしょうか。

金額はまだ書いていない。相手を責めてもいない。それでも、同条件への承諾はしていない。

更新する意思と、条件へ同意する返事を一通に詰め込まない。 この一拍があるだけで、怖さに押されて即答する状態から、話す準備へ戻れる。

最初の約束と、今やっている仕事を並べる

価格改定の理由を考える時、いきなり「いくら上げるか」から始めると苦しくなる。自分の希望だけを突きつけるように感じるからだ。

先に見るのは、契約書、発注書、更新時のメールに書かれた事実だ。その横へ、直近1〜2か月に実際に行った仕事を書く。

最初に頼まれた仕事

  • 週3日、Web画面を実装する
  • 担当した画面の不具合を直す
  • 月額62万円

今、実際に引き受けている仕事

  • 障害連絡を最初に受け、影響を確認する
  • 外部ベンダーと修正日を調整する
  • リリースしてよいか判断材料をまとめる
  • 新しく入ったメンバーの相談に答える
  • イベント当日のネットワーク確認に立ち会う

最初から、まとめて追加されたわけではなかった。

障害が起きた朝に「状況だけ見てもらえますか」と頼まれた。次の週には「ベンダーにも伝えてもらえると助かります」と言われた。リリース前には「一番分かっているので、進めてよいかも見てもらえますか」と聞かれた。

一つずつなら、20分や30分で終わる。困っている相手を前に、「契約外です」と言うほどでもない気がした。役に立てるのはうれしかったし、断れば協力的でないと思われそうだった。だから毎回引き受け、増えた仕事として記録しなかった。

その結果、更新の時には「今も同じ仕事をしている」ように見える。小さな追加を善意で引き受けたことと、次の契約でも無条件に続けることは別だ。責めるためではなく、次期に含める仕事を決めるために並べる。

ここまで並べると、「頑張ったから上げてほしい」という曖昧な話ではなくなる。最初の金額に含まれていた仕事と、あとから増えた仕事が見える。

成果も、盛らずに事実で残す。

  • 障害の連絡から影響確認まで、平均90分かかっていたものを30分以内にした
  • リリース前の確認項目を決め、差し戻しを月4件から1件に減らした
  • 問い合わせ先を一本化し、担当者が毎回人を探す状態をなくした

数字が取れない仕事もある。その場合は、「誰が何に困っていたか」「自分が入って何が変わったか」「次も何を任せたいと言われているか」の3行で十分だ。立派な資料にするより、相手と同じ出来事を思い出せる言葉にする方が役に立つ📝

フリーランス法では、発注時に業務の内容、報酬額、支払期日などを、書面やメールなどで明示することが発注者に求められている。これは、仕事が増えれば自動で単価が上がるという制度ではない。まず、次の契約で頼まれる仕事と報酬が何かを、読める形で確かめるための土台だ。

「今まで何となくやってきたから」で終わらせず、次期の発注内容へ、増えた仕事を含めるのか、元の範囲へ戻すのかを確認する。

金額だけでなく、仕事の範囲も二案にする

話し合いでは、値上げの一案だけを持っていくと、断られた瞬間に何も言えなくなる。ここでも、二択を少しほぐす。

たとえば次のように、金額と仕事の範囲を組み合わせる。

  1. 月額68万円で、実装に加えて障害一次対応、ベンダー調整、リリース整理を担当する
  2. 月額62万円を維持し、参画時と同じく実装と担当画面の不具合修正へ戻す

どちらも、相手への提案だ。「68万円でなければ辞める」と脅す話ではないし、「62万円のまま全部やる」しかない話でもない。

面談で担当者から「次期の予算はもう62万円で申請しています」と言われたら、胸が縮む。ここで「分かりました。では今のままで」と引っ込めたくなる。予算がないと言われると、自分の希望が無理だったように聞こえるからだ。

そんな時は、すぐに金額を取り下げず、次の一文へ進む。

予算の状況は分かりました。62万円の場合は、障害一次対応とベンダー調整をどなたが担当するか決めたいです。こちらも継続する場合は、通常の実装時間が月に約16時間減るためです。

相手の事情を受け止めても、増えた仕事まで自分の中へ戻す必要はない。金額が動かないなら、担当する仕事、対応時間、別見積りにする作業のどれを動かせるかを聞く。

ここで自分の最低条件も決めておく。たとえば「月額64万円以上なら現在の範囲を続ける」「現行額なら夜間とイベント対応は持たない」「今週中に決まらなければ、次の案件を探す時間を確保する」。最低条件は相手を追い込む宣言ではない。話がまとまらなかった時に、怖さだけで全部を受けないための自分向けのメモだ。

希望額を決める時は、増えた時間だけでなく、任される判断や、予定外対応の頻度も見る。障害一次対応を持つなら、通常の実装時間が何時間減るのか。ベンダー調整を持つなら、誰の返事を待ち、どこまで追うのか。新しい役割を言葉にすると、金額か範囲のどちらを変える必要があるかが見えてくる。

公正取引委員会の「労務費の適切な転嫁のための価格交渉に関する指針」は、2026年1月の改正後も、契約更新を価格交渉の機会の例に挙げ、受注者側から希望価格を示すこと、発注者と受注者の双方が交渉記録を残すことを示している。

ただし、この指針も、希望額が必ず通ると約束するものではない。相手の予算や体制もある。だからこそ、金額だけでなく、その金額で何を引き受けるかを一緒に話す。

更新日の直前ではなく、相手が予算を決める前に置く

価格の話が遅れる理由は、準備不足だけではない。「もっと成果を出してから」「次の障害を片づけてから」と、自分の中で切り出す日を延ばしてしまう。

でも、契約更新の前日まで待つと、相手側の予算も要員計画も固まっている。こちらも来月の売上が心配で、断られたくない気持ちがいちばん強くなる。お互いに選べる案が少ない。

一律に「3か月前」と決める必要はない。契約書の更新回答期限と、相手が次期予算を決める日を確認し、そこから逆算する。

  • 予算を決める前: 次期も続けたいことと、条件を相談したいことを伝える
  • 面談前: 最初の仕事、増えた仕事、次期に求められる仕事を1枚にする
  • 面談時: 希望額と、現行額なら戻す仕事の範囲を出す
  • 面談後: 合意した業務、報酬、開始日をメールや発注書で確認する

最後の記録は、疑っているから残すのではない。会話のあとに、担当者と自分が同じ条件を見られるようにするためだ。

面談の雰囲気がよいと、「細かいところは今までどおりで」と終わりたくなる。せっかく話せたのに、メールで確認したら細かい人に見える気もする。でも、次に障害が起きるのは、面談の記憶が薄れた頃だ。その時に見るのは空気ではなく、業務内容と報酬が書かれた発注書やメールになる。

「次期は実装、障害一次対応、ベンダー調整を含む。イベント立ち会いは都度見積り。月額66万円。9月1日開始」と短く残せばよい。誰が、何を、いくらで、いつから担当するかが一度で読める。

厚生労働省委託事業のフリーランス・トラブル110番が公表した2026年4〜6月の相談集計では、「報酬の支払い」が29.5%、「契約条件の明示」が15.9%だった。価格改定を言い出せない悩みが、そのまま違法だという意味ではない。ただ、報酬と契約条件で困る人が少なくないことは分かる。

契約書や発注内容が曖昧なまま進み、自分だけでは整理できない時は、無料・匿名で相談できるフリーランス・トラブル110番も使える。相談前に、契約書、発注メール、起きたことの時系列、聞きたいことを揃えると話しやすい。

返事を送ったあと、次の3か月の自分を置き去りにしない

体育館に残っていたエンジニアは、その夜、「同じ条件で承知しました」とは返さなかった。更新したい意思と、条件を相談したいことだけを送った。

翌日の面談で、担当者は単価の希望に驚いた。ただ、障害対応やベンダー調整まで任せていたことは認識していた。話し合いの結果、次期は月額66万円に上がり、イベント当日の立ち会いは別見積りになった。

希望した68万円には届かなかった。それでも、言えなかった自分を責めながら同じ条件を飲む3か月とは違う。何を含め、何を別にするかが発注書に残った。次に追加依頼が来た時も、戻って確認できる。

価格の話を出すのが怖いのは、欲深いからではない。生活と関係の両方がかかっているからだ。更新を失いたくない気持ちは、消さなくていい。

その気持ちが少し落ち着いたら、今日は金額を決めなくてよい。まず、最初に頼まれた仕事と、今やっている仕事を左右に3つずつ書く。違いが見えたら、更新へのお礼と「条件を相談したい」の一通を分けて送る。

続けたいからこそ、黙って抱えるのではなく、次の3か月を続けられる条件へ直す。 価格改定の準備は、その会話を始めるためにある🙂

更新時に金額以外も見直すなら、契約更新の前に確認したい3点も続けて確認できる。成果の伝え方を早めに整えたい場合は、更新月の前に価値を小出しにする方法が使いやすい。

参考にした情報

次の更新で、何を条件に戻すか整理する

ページへ移動

運営と監修

運営: ValueGate / 監修・相談窓口: ゆーちゃん

記事では再利用できる構造を言語化し、個別判断が必要な場合は無料診断で次アクションを整理する役割分担にしています。

関連記事