単価の上げ方 公開: 2026/2/28 更新: 2026/8/21

見積りを一行で出したら、頼まれるたびに仕事だけが増えていった

「改修一式」の見積りを出したあと、打ち合わせ、手順書、当日対応まで増えていないだろうか。金額を言い直す前に、入っている仕事と追加になる条件を分ける。

閉館後の地域ホールで追加の当日対応を頼まれ、一式見積りを前に返事をためらうエンジニア
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見積りを一行で出したら、頼まれるたびに仕事だけが増えていった

「このくらいなら、見積りの中で大丈夫です」

水曜17時40分。地域ホールの予約画面を改修していたエンジニアは、閉館前の確認会でそう答えた。

担当者から頼まれたのは、受付スタッフ向けの操作手順書と、イベント当日の立ち会いだ。どちらも最初の打ち合わせでは聞いていない。それでも、見積書には予約画面改修 一式 45万円としか書いていなかった。

もともとの依頼は、三つの画面と確認メールの修正だった。ところが着手後、旧データの移し替え、週1回の進行会議、受付スタッフへの説明も増えた。そのたびに「ここまで含めてお願いできますか」と聞かれ、断るほどの大仕事ではない気がして引き受けてきた。

今さら追加料金の話をしたら、最初の見積りが甘かったと思われないか。お金の話ばかりする人だと思われたら、次の仕事がなくなるかもしれない。

そう考えると、金額を確認するより「大丈夫です」と返す方が楽だった。返事をした直後は場が丸く収まる。でも帰りの電車で作業を数えると、土曜の立ち会いまで自分の予定から消えている。これはかなりしんどい😮‍💨

単価が伸びない時、交渉の言い方だけを練習したくなること、ない? けれど、この場面で先に直したいのは話術ではない。一つの金額に、どの仕事まで入っているかが見えないまま始めたことだ。

「一式」の中へ、言いづらい仕事が沈んでいく

総額を一行で見せること自体が悪いわけではない。相手にとっても予算を把握しやすく、受ける側も細かな時間を毎回請求せずに済む。問題は、その一行を支える説明がない時だ。

予約画面改修 一式を見た担当者は、手順書も当日対応も「予約画面を使える状態にする仕事」だと考えるかもしれない。エンジニアは、三画面を直してテストし、公開するところまでだと考えている。どちらかが悪いというより、同じ一行に別々の前提を入れている。

だから追加依頼が来るたび、契約の確認ではなく気持ちの勝負になる。「これくらいなら」と引き受けるか、「追加です」と言って空気を止めるか。その二択に見えると、関係を壊したくない人ほど自分の時間を差し出しやすい。

以前、見積りを見直す場面で何度も見たのは、実装時間より、その周りの仕事が消えているケースだ。要件を聞き直す時間、関係者へ確認する時間、説明資料を作る時間、本番後に問い合わせを受ける時間。コード以外の仕事ほど、一式の中へ静かに沈みやすい。

まず、見積書と発注内容を並べて見る

追加料金を切り出す前に、手元の事実を確認したい。見積書、発注書、契約書、合意したメールを開き、次の内容がどこまで書かれているかを見る。

  • 作るもの、直す画面、対象となる機能
  • 納品日と、相手が確認を終える日
  • 打ち合わせ、手順書、公開作業、公開後対応の有無
  • 修正できる回数と、再見積りする変更
  • 報酬額と支払日

対象となる業務委託では、フリーランス法により、発注者は業務内容、報酬額、支払期日などの取引条件を、書面やメールなどで明示する必要がある。口頭だけでは足りない。

ただし、法律が「実装、会議、修正を三つに分けて見積もること」まで決めているわけではない。仕事を細かく書けば自動的に追加料金が認められるわけでもない。法律上の明示事項を確認したうえで、どこから先を再相談するかは当事者同士で具体的に決める。 ここは分けて考えたい。

金額を上げる前に、入っている仕事を三つに分ける

地域ホールの案件では、45万円が高いか安いかを議論する前に、増えた仕事を三つへ分けた。難しい原価計算から始めなくていい。まずは、見積りの中にある仕事を見える状態にする🧾

1. 作って渡すもの

最初は、相手が受け取るものを書く。画面、API、データ、設定、手順書などだ。「予約画面改修」ではなく、対象を数えられるところまで下ろす。

今回なら、利用者向け二画面、受付向け一画面、確認メール一種類、既存データの移行は含まない、と書ける。画面名まで確定していなければ、機能の目的と対象人数でもよい。

作るものを数えられないまま総額だけ決めると、増えた時にも比べられない。 完璧な仕様書を作るためではなく、最初と現在を並べるために書く。

2. 作るまでに必要な確認と調整

次に、成果物の周りで必要になる仕事を書く。打ち合わせ、要件の整理、関係部署への確認、スタッフ説明、資料作成などだ。

ここを請求項目にするかは案件ごとに違う。それでも、見積りに含むかどうかは書ける。たとえば「60分の定例を週1回、全4回」「操作説明はオンラインで1回」「手順書はA4一枚」とすれば、追加の相談が来た時に比べやすい。

エンジニアが一番言い出しづらかったのも、この部分だった。実装ではない仕事に金額を付けると、細かく請求しているように感じたからだ。でも、書かずに引き受けると、その時間はなくなるわけではない。夜か休日へ移るだけだ🫥

3. 修正と公開後対応の終わり

最後に、直す回数と対応する時間帯を決める。「完成まで修正」では終わりが見えない。確認後の文言修正は2回まで、仕様変更は再見積り、公開日の待機は平日10時から12時、公開後の不具合は再現確認まで、というように書く。

不具合と追加変更も分けたい。合意した動きにならないなら、まず受けた側が確認する。一方、合意後に画面や対象者を増やすなら、金額や日程を相談し直す。どちらも「修正」と呼ぶと、責任の違う仕事がまた一つの箱へ入ってしまう。

終わりを書くのは、依頼を断るためではない。次の依頼を、落ち着いて相談できるようにするためだ。

45万円の下へ、実際に足した内容

地域ホールの見積りは、総額を変える前に次のように書き直した。

  • 成果物: 利用者向け二画面、受付向け一画面、確認メール一種類
  • 確認と調整: 60分の定例を全4回、受付スタッフへのオンライン説明を1回
  • 修正と公開: 指摘は一度にまとめてもらい、文言修正は2回まで、平日の公開作業を含む
  • 再相談する内容: 画面追加、旧データの移行、手順書の追加、休日の立ち会い

最初から項目ごとの金額を出せなくても、総額45万円の下に「含むこと」と「含まないこと」は書ける。時間単価を相手へ見せるかどうかとも別の話だ。まず境界が見えれば、あとから画面が一つ増えた時、最初の約束と比べて話せる。

ここで大切なのは、何でも範囲外にすることではない。受付スタッフへの説明が公開に欠かせないと分かったなら、今の金額へ入れる判断もある。その場合も、回数や長さを決めて記録する。含める仕事ほど、善意のまま曖昧にしない。 そうすれば、次の説明依頼が来た時に「前回と同じ1回まで」「2回目から再相談」と言える。

「追加です」と言えない夜へ戻らないための線

範囲を分けても、実際に頼まれた瞬間は気まずい。担当者を前にすると、用意した言葉が飛び、「まあ今回だけなら」と言いたくなる。ここで必要なのは、強く断る台詞ではなく、その場で即答しない短い返事だ。

地域ホールの確認会では、次のように言い直せた。

当初の見積りには三画面の改修と公開作業までを含めています。手順書と土曜の立ち会いは入っていないため、必要な時間と日程への影響を明日15時までにお送りします。

これなら、相手の依頼を否定していない。自分の見積りが絶対に正しいとも主張していない。今の合意内容と、これから確認することを分けている。

「細かい人だと思われそう」と胸がざわつく時ほど、感情で説明を増やさない方がよい。まず事実を一文、範囲外の内容を一文、返答する時刻を一文。返事を保留することは、関係を悪くする行為ではなく、条件を確認してから約束するための時間だ。

金額か範囲か、二つの案にする

確認後は、値上げのお願いだけを出さず、選べる形にする。

  • 現在の45万円を維持し、三画面の改修と平日の公開作業までにする
  • 手順書と土曜の立ち会いを追加し、金額と納期を調整する

予算が動かないなら、追加した仕事のどれを外すか決められる。すべてを同じ金額で抱えるか、仕事を失うかという二択ではない。相手も、何に費用がかかるのかを見て判断できる。

労務費の上昇を価格へ反映する交渉について、公正取引委員会の指針は2026年1月1日に改正され、発注者と受注者が協議の機会を持つことや、必要に応じて公表資料を根拠にすることを示している。また、取引関係への悪影響を恐れて、受注者が価格転嫁を言い出しにくい状況にも触れている。

この指針は、今回のような仕事の追加に対する報酬を自動的に決めるものではない。それでも、価格の話を「わがまま」にせず、何が変わったか、どの条件を調整したいかを記録して協議する考え方は使える。労務費の上昇を理由にするなら、指針が挙げる最低賃金や賃金統計などの公表資料を確認したい。

値下げや予算上限へ別案を返す場面は、「少し安くできませんか?」にどう返す? 受託案件の価格を守る3つの提案でも整理している。追加依頼そのものの扱いを決めたい時は、修正依頼を無限対応にしないための線引きもつながりやすい。

一行を三行に変えると、返事の重さが変わる

翌朝、エンジニアは担当者へ、作るもの、含む調整、再相談する条件を一枚で送った。手順書はA4一枚まで今の範囲へ入れ、土曜の立ち会いは別料金にする。担当者から返ってきたのは、責める言葉ではなかった。

当日の受付は館内スタッフで対応します。事前に1時間だけ説明をお願いします。

すべて希望どおりになったわけではない。それでも、土曜の予定は戻り、説明の時間も決まった。何より、追加の相談が来るたびに、自分が細かいのかどうかを一人で悩まなくてよくなった🙂

次の見積りで、いきなり立派な内訳書を作る必要はない。まず、総額の下へ三行を足す。

  1. この金額で作って渡すもの
  2. この金額に含む確認、修正、対応時間
  3. 内容が変わった時に相談し直す条件

見積りは、金額を正当化する紙ではなく、あとで仕事が増えた時に二人で同じ約束を見直すための紙だ。 一式の一行を三行へ変えるだけでも、次の依頼へ返事をする重さはかなり変わり、迷いも減る。

見積りに入っている仕事を整理する

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