契約と更新 公開: 2026/9/5

入金額が請求書より770円少ない。「手数料くらい」で黙ってしまった

請求額と入金額が違うのに、少額だから聞きづらい。契約更新を前に黙ってしまった人が、3つの金額を照合し、差額の理由を確認するまでの話です。

夕方のATMコーナーで、請求額より少ない入金をスマートフォンで見つけて立ち尽くすフリーランス
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入金額が請求書より770円少ない。「手数料くらい」で黙ってしまった

金曜17時26分、買い物の帰りに寄ったATMコーナーで、フリーランスのエンジニアとして働く真琴は入金通知を開いた。

前月分の請求額は30万円。表示された入金額は29万9230円だった。

請求書を開き直し、契約書も見た。源泉徴収の対象ではない案件で、消費税の扱いを含む請求額も確認済みだった。見間違いかと思って銀行アプリへ戻ったが、差額は770円のままだった。

真琴は、その場で取引先へ連絡しようとした。けれど、翌週には契約更新の面談がある。「手数料くらいで細かい人だと思われたくない」「今後も仕事を頼みたい相手に、お金の話ばかりする人と思われたくない」。文章を二行打っては消し、結局スマートフォンをポケットへ戻した。

770円で今月の生活が崩れるわけではない。だからこそ、気にしている自分のほうが小さいように感じた。ところが帰宅後も、差額より「自分に断らず金額が変わったのか」という引っかかりが残った。

苦しいのは770円を失ったことだけではない。契約で決めた金額を確認してよいのか、自分でも分からなくなることだ。 相手を責める前に、まず二つの記録を合わせるための確認に戻ろう💴

770円の違いなのに、確認するのがこんなに重い

少額だと、自分の違和感を先に値引きしてしまう

大きな未払いなら、請求担当へすぐ連絡しようと思える。770円のような少額だと、「振込手数料だろう」「この程度は自分が負担するものかもしれない」と理由を補い、自分の違和感を引っ込めやすい。

契約更新や次の発注を控えていれば、なおさら聞きにくい。質問をしただけで面倒な人に見られ、仕事が減る場面まで想像してしまう。その不安から、真琴は「入金を確認しました。ありがとうございます」とだけ送ろうとした。

ただ、取引先が何を差し引いたのかは、まだ聞いていない。振込手数料とは限らず、源泉徴収、前月の過払い調整、請求書の計算違いという可能性もある。金額が小さいことと、内訳を確認しなくてよいことは別だ。

差額を見つけた時点では、こちらの勘違いとも、相手の違反とも決めない。分からない状態を分からないままにしないことが最初の仕事になる。

一度黙ると、次の入金でも言い出しにくくなる

「今月だけなら」と画面を閉じると、その場の気まずさは避けられる。しかし、翌月も同じ額が差し引かれたとき、「先月は何も言わなかったのに、今さら聞いてよいのか」という別の重さが加わる。

770円が12回続けば9240円になる。それ以上に負担になるのは、入金のたびに請求書と違う理由を推測し、取引先へ聞くか迷う時間だ。小さな違いを放置したことで、何が契約上の基準なのかが毎月曖昧になる。

真琴も、半年分を頭の中で計算したところで手が止まった。「最初に聞かなかった自分も悪い」と感じ、さらに連絡しづらくなった。だが、前回黙ったことは、今回の差額に同意した証明にはならない。

確認が遅れた自分を責めるより、次の入金までに基準を一つそろえるほうが、この先の負担を小さくできる。

法律を調べる前に、三つの金額を横に並べる

契約額、請求額、入金額を別々に確かめる

検索窓へ「振込手数料 差し引き 違法」と入れる前に、次の三つを横に並べる🔎

  1. 契約書、発注書、メールなどで決めた報酬額
  2. 自分が発行した請求書の請求額
  3. 銀行口座へ実際に入った金額

ここでは、税込・税別、源泉徴収の有無、値引きや立替金の精算も見る。源泉徴収は、対象となる報酬から支払者が所得税などを差し引き、本人に代わって納める仕組みだ。すべての業務委託に同じように発生するものではないため、「少ない分は税金だろう」と決めつけない。

真琴の場合、契約時に決めた額と請求額は30万円で一致し、入金額だけが770円少なかった。そこで初めて、「請求額と入金額の差額は770円」という事実だけを切り出せた。

請求日、検収日、支払日の認識もずれているなら、入金日を推測し続けないための支払い条件の決め方から整理するとよい。今回のような差額の確認と、支払いが遅れている問題を混ぜずに済む。

最初にそろえるのは主張ではなく数字だ。数字がそろえば、感情の強さに頼らず質問できる。

「なぜ引いたのですか」ではなく、内訳と根拠を聞く

三つの金額を確認したら、差額の内訳と、参照した契約・発注条件を記録に残る形で尋ねる。電話だけで終わらせず、メールやチャットを使う。

真琴は、責めているように見えるのが怖くて長い前置きを書いていた。しかし、事情を想像した文章を増やすほど、何を確認したいのかが見えなくなった。そこで、次の三文に直した📝

本日、入金を確認しました。請求額300,000円に対し、入金額は299,230円でした。

差額770円の内訳と、今回参照された契約・発注条件をご確認いただけますか。

次回以降の請求額と入金額を同じ認識にしたいため、記録に残したくお願いします。

相手から「振込手数料です」と返ってきたら、初めて振込手数料の扱いを確認できる。「経理処理の誤りでした」「源泉徴収の設定を誤っていました」という返答なら、別の修正が必要になる。

契約書に手数料負担の記載がある場合も、その一文だけで判断を終えない。いつ合意した委託か、どれくらいの期間続く委託か、フリーランス法の対象となる取引かを次に見る。

「合意していたから大丈夫」とは限らない

まず、フリーランス法の対象かを確認する

フリーランス法は、業務を受ける側と発注する側の条件によって適用が決まる。受ける側は、従業員を使わない個人や、代表者以外の役員がおらず従業員も使わない法人などが基本となる。発注者側の体制や、委託期間によって適用される義務・禁止事項も変わる。

そのため、業務委託ならすべて同じ結論になるわけではない。まず、公正取引委員会の案内で当事者と期間の条件を確認する。個別の契約が当てはまるか迷う場合は、契約書を手元に置いて相談窓口へ聞くほうが確実だ。

公正取引委員会は、2026年1月1日以後に行われた、1か月以上の期間にわたる業務委託について、振込手数料を報酬から差し引くことは、当事者間の合意があっても「報酬の減額」に当たると説明している。ここでいう報酬の減額とは、発注後に決めた報酬額を、受ける側に責任がないのに減らして支払うことだ。

契約書に手数料負担と書いてあるかだけでなく、法律の対象となる取引か、委託した時期と期間はどうかまで確かめる必要がある。

2026年には、実際に二つの勧告が出ている

公正取引委員会は2026年8月26日、株式会社ジェイトップに対して勧告を行った。同社は受託事業者138名へ報酬を支払う際、合意していた振込手数料の額より実際の手数料が低かったにもかかわらず、合意額を差し引いていた。実際の手数料との差額は合計48万1031円で、同社は8月5日までに支払ったとされる。

また、同年6月18日の株式会社SPCに対する勧告では、書面やメールなどによる合意がないまま、受託事業者36名の報酬から振込手数料計5万5770円を差し引いていた。こちらも差し引いた額を支払ったと公表されている。

二つの事例は、真琴の契約が直ちに違反だと証明するものではない。ただ、「少額の手数料だから確認するほどではない」と片づけず、合意内容、実際の手数料、委託時期と期間を照合する理由にはなる。

公正取引委員会が2026年6月10日に公表した令和7年度の運用状況では、フリーランス法に関する申出は604件、新規着手は1626件だった。指導・勧告などの処理は1552件あり、違反内容として多かったのは支払期日の設定と取引条件の明示だった。情報通信業は指導・勧告件数が最も多い業種でもある。

数字を見て不安を大きくする必要はない。制度は、相手を脅すためではなく、何を確認すべきかを整理する材料として使える。

「770円なら我慢すべきか」ではなく、「決めた報酬と実際の支払いが一致しているか」を問えばよい。

気まずさが消えなくても、次の入金前に一つ決められる

返答と資料を、起きた順に残す

真琴がメールを送ると、取引先から「経理で一律に振込手数料を差し引いていた。契約の確認ができていなかった」と返信があった。差額は翌週に支払われ、次回から請求額どおりに振り込むことも文章で確認できた。

返信を待つ間、真琴は何度も「大げさだったかもしれない」とメールを読み返した。それでも、事実を三つに分けて書いたことで、謝り続けたり、その場で値引きを受け入れたりせずに済んだ。

相手がすぐ訂正するとは限らない。返答が曖昧な場合や、同じ差し引きが続く場合は、次を起きた順に保存する。

  • 契約書、発注書、取引条件を伝えたメールやチャット
  • 請求書と、送付した日時が分かる記録
  • 入金日と入金額が分かる明細
  • 差額の内訳を尋ねた文面と相手の返答
  • いつ、誰と、何を話したかのメモ

相手が条件の変更を提案してきたら、その場で即答しなくてよい。「確認して明日までに返します」と区切り、契約前に確認したい5つの条件へ戻る。単価だけでなく、支払日、経費、変更方法を一つの記録にそろえる。

一人で判断できないときは、記録を持って相談する

フリーランス・トラブル110番は、厚生労働省の委託事業として第二東京弁護士会が運営する相談窓口だ。フリーランスや個人事業主が、無料で弁護士へ相談でき、匿名のウェブ相談にも対応している。公正取引委員会にも、フリーランス法の相談・申出窓口がある。

相談することは、すぐに争うと決めることではない。自分の取引が制度の対象か、どの資料を示せばよいか、次に何を伝えるかを確認するためにも使える。

契約を続けるほど差額より確認時間の負担が大きくなるなら、見かけの時給から連絡・請求・手戻りを引いて考える方法で、取引全体を見直す手もある。契約を切るか我慢するかの二択ではなく、条件を整えて続けられるかを先に見る。

真琴は更新面談で、手数料の件を謝らなかった。「先日の確認どおり、次回は請求額と入金額を一致させる」で話を終えた。相手の表情を読み続ける代わりに、文章で決めた条件へ戻れた。

気まずさがなくなるのを待たなくてよい。契約額、請求額、入金額の三つを並べれば、責める言葉を探さなくても確認を始められる。

請求額と入金額がずれない条件を整える

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参考にした一次情報・相談窓口

※この記事は一般的な情報を整理したもので、個別の取引について法的な判断を行うものではない。

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運営: ValueGate / 監修・相談窓口: ゆーちゃん

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